引き出しの奥に、使わなくなったペン型の口腔内カメラが眠っていませんか。当院は、そのカメラの専用アプリをAIと一緒に自作しました。カメラ本体のボタンがシャッターになり、もともと無かった動画撮影が付き、接触が悪くなっていたコードまで現役に戻りました。機械は何も買い替えていません。
これは、この記録の中で私がいちばん人に話したい部分です。
歯科の機材は、たいてい「本体」と「付属ソフト」がセットで売られています。そして付属ソフトは、たいてい微妙です。起動が遅い、保存先が選べない、患者さんごとに整理されない、動画が撮れない——そこで多くの先生は「このカメラはこんなものか」と思って、使うのをやめてしまいます。私もそうでした。
でも、よく考えると変な話です。カメラという機械そのものは、まだ何も悪くなっていない。気に入らないのは、そこに付いてきた「ソフト」だけです。だったら、ソフトだけ作り直せばいい。当院のカメラは、その日から生き返りました。
長く使った口腔内カメラは、たいていコードの根元から弱っていきます。当院のカメラも、ある時期から映像が急に消える・固まるようになりました。撮影の途中で画面が止まる。患者さんを前にして、それは使えません。買い替えを覚悟していました。
ここで、自作アプリだからできることがありました。「接触が切れる」こと自体は直せなくても、「切れた後の困り方」は直せる。そこでアプリ側に、2つの機能を書き足しました。
「壊れたから買う」の前に、「壊れても困らないようにする」という手がありました。これは既製ソフトでは絶対に手に入らない性質です。メーカーは、あなたのカメラのコードが弱ってきたことを知らないからです。知っているのは、毎日それを握っている人だけ。だから自分で(AIに頼んで)直すのが、いちばん速い。
市販のUSB口腔内カメラ(MD740・UVCという共通規格のカメラ)は、実はパソコンから見れば「ただのカメラ」です。つまり、使い方はソフト側で自由に決められます。当院が引き出したのは、こんなことでした。
撮影のたびにパソコンへ手を伸ばす必要がありません。グローブをした手はカメラだけ持っていればいい。付属ソフトでは反応しなかった物理ボタンを、シャッターとして拾うようにしました。
ハードは最初から動画を撮る力を持っていました。使っていなかっただけです。最長30秒でカウントダウン付き自動停止。動きのあるもの(食いしばり・破損部の当たり方など)は、写真より1本の動画が強い。
テンキーでカルテ番号を打つ。あとは撮るだけ。写真も動画も、その患者さんのフォルダに日付ごとに自動で積まれます。「あとで整理する」が発生しません。
📷写真/🎬録画/🪪受付(診察券撮影)。今どのモードかは画面全体の色で分かるので、誤操作しません。診察券は口腔内写真と混ざらない別保存です。
ライブラリでカルテ番号を選ぶと日付ごとに一覧。拡大ウィンドウを何枚でも開いて自由に並べられるので、初診時と今の写真を横に並べて患者さんに見せられます。
リセットボタンで、入力したカルテ番号・撮りたてのサムネイルを一括クリア。「前の患者さんのフォルダに間違って保存する」という事故を、仕組みで消しました。
患者さんに写真を見せるとき、いちばん伝わるのは「ここです」と指すことです。そこで、撮った写真に図形と文字を書き込む機能を足しました。全診療PCに配布済みです。
丸・四角・正三角形・直線・手書き・文字。色は6種、太さは3段階。ボタンを押して、写真の上をなぞるだけです。パソコンの操作に慣れていないスタッフでも、説明1分で使えます。
文字を打つとき、別の入力欄に打ち込んで後から配置する——ではなく、写真の上で、その大きさ・その色のまま打てます。仕上がりが打っている最中に見えるので、やり直しが起きません。
書き込みは「_描画.jpg」という別ファイルとして保存します。元の写真は手つかずのまま残る。診療記録としての原本と、説明用に加工したものを、はっきり分けています。
書き込んだ画像も、元の写真と同じ患者さんのフォルダへ。次回来院時に「前回ここを説明しましたね」から始められます。説明した内容が記録として残る、ということです。
これがいちばん効いています。写真を「取り込む」作業が、存在しません。撮影した写真と動画は共有フォルダのカルテ番号フォルダに入り、それは同時にサブカルテ(当院の電子サブカルテ)が読んでいる場所です。つまり、撮った瞬間に患者ページの「📸口腔内写真・動画」に並びます。
※ 写真の保存先は院内の共有サーバーです。インターネットには出しません。
自分で作った道具は、自分が毎日使います。だから「なんとなく重い」で妥協できません。あるとき、アプリの反応が引っかかるようになりました。ここで大事なのは、原因を推測で決めつけないことです。私は(AIと一緒に)実際に測りました。
最初に私が疑ったのは、まったく別の場所でした。測らずに直していたら、時間だけ使って何も改善しなかったはずです。AIは「測り方」を教えてくれるし、測る道具そのものも作ってくれます。ここが、素人が本職の領域に踏み込める理由だと思っています。
院内には17台のパソコンがあります。アプリを直すたびに1台ずつ回ってコピーする——それをやっていたら、改善は止まります。当院は置き場所に新しいものを置くだけで、全PCが自動で最新版に入れ替わる仕組みを作りました。だから「思いついたら直す」が続けられます。
マスターに新しいアプリを置くと、各パソコンが自分で受け取ります。各PCごとの設定(保存先や文字サイズ)は上書きされずに残ります。ここを守らないと、配布のたびにスタッフが設定し直すことになるからです。
アプリ本体と説明書をひとつにまとめた配布パッケージを用意しています。ネット接続なしで開ける説明書付きで、受け取った先生がそのまま導入できる状態です。院内の共有フォルダ名などは外部向けに置き換え済みです。
その機械は、まだ働けます。
足りないのは、たいていソフトのほうです。
順番があります。いきなり全部を作ろうとすると、まず挫折します。当院の実際の順番はこうでした。
※ 当院のアプリは C# / WinForms(.NET 8)で書かれたWindows用アプリです。プログラムの中身は1行も自分で書いていません。「こうしたい」を伝え、動かして、直してもらう——それだけで、ここまで来ました。
AIで自分の仕事の道具を作っている方、いま何かを試している方。業種は問いません。使っている機材のこと、選んでいるAIのこと、うまくいかなかったこと——何を作っているか、ひとことでも添えてもらえるとうれしいです。