Deep dive 01
口腔内カメラアプリ

断線しかけたカメラが、
現役に戻った。
買い替えず、ソフトを書いて。

引き出しの奥に、使わなくなったペン型の口腔内カメラが眠っていませんか。当院は、そのカメラの専用アプリをAIと一緒に自作しました。カメラ本体のボタンがシャッターになり、もともと無かった動画撮影が付き、接触が悪くなっていたコードまで現役に戻りました。機械は何も買い替えていません。

全診療PCで稼働中 ハード追加費用 0円 C# / WinForms(.NET 8) サブカルテと直結
ステンレストレーに置かれたペン型の口腔内カメラ。コードの根元が少し傷んでいる(イメージ)
買い替えを覚悟したのは、映像が固まるようになったから。でも悪くなっていたのは、コードの根元だけでした。image: AI (gpt-image-2)
The turning point

「機械の性能」だと思っていたことの半分は、
ソフトの話でした。

これは、この記録の中で私がいちばん人に話したい部分です。

歯科の機材は、たいてい「本体」と「付属ソフト」がセットで売られています。そして付属ソフトは、たいてい微妙です。起動が遅い、保存先が選べない、患者さんごとに整理されない、動画が撮れない——そこで多くの先生は「このカメラはこんなものか」と思って、使うのをやめてしまいます。私もそうでした。

でも、よく考えると変な話です。カメラという機械そのものは、まだ何も悪くなっていない。気に入らないのは、そこに付いてきた「ソフト」だけです。だったら、ソフトだけ作り直せばいい。当院のカメラは、その日から生き返りました。

主役はこの1本。ソフトを書き替えただけで、今も毎日の診療で現役です。motion: AI video (H3, 院内GPU)
機械を買い替える前に、
ソフトを書き替えるという選択肢が、
今はあります。
Story — the cable

コードの接触が悪くなったカメラを、
捨てずに済んだ話。

長く使った口腔内カメラは、たいていコードの根元から弱っていきます。当院のカメラも、ある時期から映像が急に消える・固まるようになりました。撮影の途中で画面が止まる。患者さんを前にして、それは使えません。買い替えを覚悟していました。

ここで、自作アプリだからできることがありました。「接触が切れる」こと自体は直せなくても、「切れた後の困り方」は直せる。そこでアプリ側に、2つの機能を書き足しました。

BEFORE — 付属ソフト

切れたら、そこで終わり

  • USBが一瞬でも外れるとソフトがカメラを見失う
  • 復帰させるにはソフトを再起動——患者さんを待たせる
  • 映像が固まったのか、機械が壊れたのか判断できない
  • 結論:「もう寿命だ、買い替えよう」
AFTER — 自作アプリ

切れても、勝手に戻ってくる

  • USBが抜けても挿し直すだけで自動再接続(操作ゼロ)
  • 映像が固まったら約6秒で自動復旧して撮影に戻る
  • アプリを立ち上げ直す必要が、そもそも無い
  • 結論:買い替えず、現役で使い続けている
弱ってきたハードの寿命を、ソフトが延ばした。

「壊れたから買う」の前に、「壊れても困らないようにする」という手がありました。これは既製ソフトでは絶対に手に入らない性質です。メーカーは、あなたのカメラのコードが弱ってきたことを知らないからです。知っているのは、毎日それを握っている人だけ。だから自分で(AIに頼んで)直すのが、いちばん速い。

What it does

「機械にできること」は、
ソフトを書けば引き出せる。

市販のUSB口腔内カメラ(MD740・UVCという共通規格のカメラ)は、実はパソコンから見れば「ただのカメラ」です。つまり、使い方はソフト側で自由に決められます。当院が引き出したのは、こんなことでした。

グローブをした手の親指が、口腔内カメラ本体側面のボタンを押している(イメージ)
撮影のたびにパソコンへ手を伸ばさない。奥のキーボードには、もう触りません。image: AI (gpt-image-2)

カメラ本体のボタンが、そのままシャッター

撮影のたびにパソコンへ手を伸ばす必要がありません。グローブをした手はカメラだけ持っていればいい。付属ソフトでは反応しなかった物理ボタンを、シャッターとして拾うようにしました。

手の動きが1つ減る

存在しなかった「動画撮影」を追加

ハードは最初から動画を撮る力を持っていました。使っていなかっただけです。最長30秒でカウントダウン付き自動停止。動きのあるもの(食いしばり・破損部の当たり方など)は、写真より1本の動画が強い。

機能を後から生やせる

カルテ番号を入れるだけで、勝手に整理

テンキーでカルテ番号を打つ。あとは撮るだけ。写真も動画も、その患者さんのフォルダに日付ごとに自動で積まれます。「あとで整理する」が発生しません。

整理の手間がゼロ

3モードを、画面の色で切り替え

📷写真/🎬録画/🪪受付(診察券撮影)。今どのモードかは画面全体の色で分かるので、誤操作しません。診察券は口腔内写真と混ざらない別保存です。

迷わない色分けUI

前後の比較は、窓を何枚でも開いて

ライブラリでカルテ番号を選ぶと日付ごとに一覧。拡大ウィンドウを何枚でも開いて自由に並べられるので、初診時と今の写真を横に並べて患者さんに見せられます。

説明力が上がる

次の患者さんへ移る前に、ワンタッチ

リセットボタンで、入力したカルテ番号・撮りたてのサムネイルを一括クリア。「前の患者さんのフォルダに間違って保存する」という事故を、仕組みで消しました。

事故を設計で防ぐ
New — 2026.08

写真の上に、そのまま書き込める。

患者さんに写真を見せるとき、いちばん伝わるのは「ここです」と指すことです。そこで、撮った写真に図形と文字を書き込む機能を足しました。全診療PCに配布済みです。

モニタに拡大表示された口腔内写真の上に赤い丸と矢印が描かれ、術者が指で指している(イメージ)
「ここです」と指した場所が、そのまま画像として残る。次回は「前回ここを説明しましたね」から始まります。image: AI (gpt-image-2)

ボタンを選ぶだけ。マウスの練習は不要

丸・四角・正三角形・直線・手書き・文字。色は6種、太さは3段階。ボタンを押して、写真の上をなぞるだけです。パソコンの操作に慣れていないスタッフでも、説明1分で使えます。

Undo / Redo あり

文字は「見たまま」入る

文字を打つとき、別の入力欄に打ち込んで後から配置する——ではなく、写真の上で、その大きさ・その色のまま打てます。仕上がりが打っている最中に見えるので、やり直しが起きません。

文字サイズ3段

元の写真は、絶対に汚さない

書き込みは「_描画.jpg」という別ファイルとして保存します。元の写真は手つかずのまま残る。診療記録としての原本と、説明用に加工したものを、はっきり分けています。

原本保持

そのまま患者ページに並ぶ

書き込んだ画像も、元の写真と同じ患者さんのフォルダへ。次回来院時に「前回ここを説明しましたね」から始められます。説明した内容が記録として残る、ということです。

説明の継続性
Where the photos go

撮った瞬間に、
患者さんのページに並んでいる。

これがいちばん効いています。写真を「取り込む」作業が、存在しません。撮影した写真と動画は共有フォルダのカルテ番号フォルダに入り、それは同時にサブカルテ(当院の電子サブカルテ)が読んでいる場所です。つまり、撮った瞬間に患者ページの「📸口腔内写真・動画」に並びます。

撮る 勝手に置かれる 開くだけ 口腔内カメラアプリ 本体ボタンで📷 / 🎬 🪪 受付モード 診察券は別保存 共有フォルダ カルテ番号ごとの箱 日付で自動仕分け サブカルテ患者ページ 📸口腔内写真・動画 ✏ 書き込み画像 _描画.jpg(原本は別) 🪪 診察券一覧 日付カレンダー表示
撮影から患者ページまで、人の作業は「カルテ番号を打つ」だけ — diagram: AI (Claude)

※ 写真の保存先は院内の共有サーバーです。インターネットには出しません。

Obsession

「なんか重い」を、
感覚ではなく数字で潰した。

自分で作った道具は、自分が毎日使います。だから「なんとなく重い」で妥協できません。あるとき、アプリの反応が引っかかるようになりました。ここで大事なのは、原因を推測で決めつけないことです。私は(AIと一緒に)実際に測りました。

1
アプリの「心拍」を測る画面を描き直す余力がどれだけ残っているかを計測。すると2秒ごとに0.39秒、完全に固まっていることが判明しました。裏側の見張り処理が、画面を描く担当者の仕事を奪っていたのが原因でした。
2
操作するたびに増える「部品」を数える写真を並べるたびに、画面の内部部品が106個ずつ増え続けていた。使えば使うほど重くなる正体でした。作り方を変えて解決。
3
起動時間を1.3秒 → 0.2秒にプログラムの準備の仕方を変えるだけで、6分の1になりました。1日に何十回も立ち上げる道具なので、ここは効きます。
教訓:「遅い」は推測で直さない。必ず測る。

最初に私が疑ったのは、まったく別の場所でした。測らずに直していたら、時間だけ使って何も改善しなかったはずです。AIは「測り方」を教えてくれるし、測る道具そのものも作ってくれます。ここが、素人が本職の領域に踏み込める理由だと思っています。

Deployment

直したら、全診療PCに勝手に配られる。

院内には17台のパソコンがあります。アプリを直すたびに1台ずつ回ってコピーする——それをやっていたら、改善は止まります。当院は置き場所に新しいものを置くだけで、全PCが自動で最新版に入れ替わる仕組みを作りました。だから「思いついたら直す」が続けられます。

院内は自動配布

マスターに新しいアプリを置くと、各パソコンが自分で受け取ります。各PCごとの設定(保存先や文字サイズ)は上書きされずに残ります。ここを守らないと、配布のたびにスタッフが設定し直すことになるからです。

全17台を1回の更新で

他院の先生にも、そのまま渡せる形にしてある

アプリ本体と説明書をひとつにまとめた配布パッケージを用意しています。ネット接続なしで開ける説明書付きで、受け取った先生がそのまま導入できる状態です。院内の共有フォルダ名などは外部向けに置き換え済みです。

説明書同梱

その機械は、まだ働けます。
足りないのは、たいていソフトのほうです。

— 口腔内カメラアプリ / IntraoralCam
If you want to do the same

自院で再現するとしたら。

順番があります。いきなり全部を作ろうとすると、まず挫折します。当院の実際の順番はこうでした。

1
「使っていない機材」を1つ選ぶ眠っている機材は、失敗しても診療が止まりません。最初の1本は必ずここから。
2
「今、何が嫌か」を10行書き出す設計書は要りません。不満のリストがそのまま仕様書になります。「保存先が選べない」「動画が撮れない」——それで十分です。
3
AIに、その10行を渡す「このカメラで、これができるアプリを作れますか」と聞くところから始まります。専門用語は要りません。できないことは、AIがちゃんと「できない」と言います。
4
1つ動いたら、そこで一度止めて使う写真が撮れて保存できたら、まず1週間使ってみる。次に直すべき場所は、机の上ではなく診療室で見つかります。当院の動画機能も書き込み機能も、そうやって後から生えました。

※ 当院のアプリは C# / WinForms(.NET 8)で書かれたWindows用アプリです。プログラムの中身は1行も自分で書いていません。「こうしたい」を伝え、動かして、直してもらう——それだけで、ここまで来ました。

「こんなことやってるよ」を、
聞かせてください。

AIで自分の仕事の道具を作っている方、いま何かを試している方。業種は問いません。使っている機材のこと、選んでいるAIのこと、うまくいかなかったこと——何を作っているか、ひとことでも添えてもらえるとうれしいです。

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医療法人 For one tooth
くりえいと歯科おおかわちクリニック 大川内秀幸
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買えば高い・なじむのに時間がかかる。
だから内製して、つなげた。