サブカルテ、音声入力、お薬手帳、勤務医の教育、受付の予約。どれも世の中に製品があります。見積もりを取ったことがある先生なら、金額の見当はつくはずです。それでも当院が自作を選んだ理由は、値段だけではありません。買ったものは「つながらない」からです。
導入してみて使われなくなったシステム、思い当たりませんか。原因はたいてい逆です。機能が多すぎて、自院のやり方と形が違う。だから覚えることが多く、研修に時間がかかり、結局一部の機能しか使われないまま、月額だけが残ります。
そしてもうひとつ。買ったシステムは、他社のシステムとつながりません。カメラで撮った写真は写真のソフトの中、お薬手帳は紙のまま、検査結果は別のソフトの中。患者さん一人の情報が、院内で3か所4か所に散らばる。これは機能の問題ではなく、構造の問題です。買い続けても解決しません。
「連携」と言うと大がかりに聞こえますが、やっていることは単純です。ある仕事の出口を、次の仕事の入口にそのまま差し込む。これだけです。人が間に入って転記する工程が、順番に消えていきました。
| つないだもの | 前は、こうだった | 今は、こうなった |
|---|---|---|
| お薬手帳 → カルテ | 受付が見て、口で伝える。 伝え漏れると診療中に気づけない | 受付が撮るだけで注意点が下書きになり、診察前に医師の画面に届く。確定するのは歯科医師 |
| 声 → カルテ | 診療後に思い出して書く。 書き忘れ・記載のばらつき | 録音からカルテ下書きが自動でできる。医師は確認して確定するだけ |
| 声 → 歯周検査表 | 記録係を1人つけて読み上げ。 人手が1人取られる | 読み上げるだけで検査表が埋まる。1歯あたり2〜3秒、記録係が不要に |
| カメラ → カルテ | あとでパソコンに取り込んで、 フォルダに振り分ける | 撮った瞬間に患者ページへ。取り込み作業そのものが消滅(詳細ページ) |
| 教育の記録 → 予約 | 「この処置この先生でいい? 何分取る?」を毎回院長に確認 | 症例実績から「任せられる度」と所要時間の目安を自動表示。受付が自分で判断できる |
| カルテ → アポ帳 | 予約表に手で患者名を書き込む。 同姓・誤記が起きる | カルテ番号を入れると氏名が自動で入る(アポ帳はスタッフ試用中) |
※ ここに出てくる患者さんの情報を扱う処理は、すべて院内のパソコンだけで動く「ローカルAI」が担当しています。インターネット上のAIには送りません。
最初は、サブカルテに音声入力を付けました。次に歯周検査に付けたくなり、その次に別のアプリにも欲しくなりました。ここで同じものを3回作りかけて、間違いに気づきました。
そこで院内AIの「共通の窓口」を1つだけ作りました。どのアプリも、音声を文字にしたいときはこの窓口に投げる。すると、聞き取りの精度を上げる工夫を1か所直せば、全部のアプリが同時に賢くなります。これは自作でなければ絶対にできない設計です。
院内のパソコンのグラフィック性能(GPU)を使って処理します。録音を止めた瞬間には、もう文字になっている速さです。診療の合間に使う道具なので、待たされないことが最優先でした。
普通の音声入力は「頬側(きょうそく)」を「強速」と書きます。だから歯科用語の辞書を毎回AIに手渡してから聞き取らせ、さらに読みが一致する語は機械的に正しい表記へ直します。
用語集の置き場所は、サブカルテの中の1つのファイルです。診療中に「この言葉、誤変換するな」と気づいて1行足すと、翌日からすべてのアプリに効きます。育てた分だけ返ってくる形です。
院内のGPUが別の仕事で混んでいるときは、自宅のパソコンに処理を回します。2秒返事がなければ見切って院内で処理するので、遅くなることはありません。どちらも自分のパソコンなので、情報は外に出ません。
録音した会話から、AIがSOAP形式(主観・客観・評価・計画)の下書きを作ります。ゼロから書くのと、直すのとでは、かかる時間が別物です。確定は必ず歯科医師が行います。
歯周検査の数字の読み取りは、当初AIに解析させていました。それをやめて決まりごとの処理はプログラムに任せたところ、205秒→24秒に短縮し、正確さも上がりました。AIは万能の道具ではなく、適材適所の道具です。
「4、3、5…」といつもの順番で読み上げるだけで、検査表が埋まっていきます。6点法(1人あたり168点)にも対応。読み上げの順番は当院で実際に使っている「移動距離が最短になる一筆書き」の順を、そのままプログラムに教えてあります。検査のためだけに記録係を1人つける必要が、なくなりました。結果は紙の検査表とそっくりのレイアウトの画像でも保存するので、スタッフも患者さんも読み方を覚え直す必要はありません。
当院で、いちばん自慢したい連携はこれです。
勤務医が複数いる医院では、予約を取るときに必ずこの壁が来ます。「この処置を、この先生の枠に入れていいのか」「何分取ればいいのか」。受付はそれを判断する材料を持っていないので、院長に聞くしかありません。院長が診療中なら、患者さんを電話口で待たせることになります。
この判断材料は、実はもう院内にありました。勤務医の教育記録の中です。誰がどの症例をどれだけ経験したか、どの処置を「できる」と自己申告しているか。当院はそれを教育サイトの中に約340件ぶん蓄積していました。それを予約の判断に流し込んだ、というだけの話です。
勤務医教育の悩みは、やっても成果が見えないことです。「成長しているのは分かるが、で、何が変わったのか」。この連携を入れてから、答えが具体的になりました。1つ習得が進むと、任せられる処置が増え、予約が取りやすくなり、院長の確認が1つ減る。教育がそのまま医院の回転につながる形になったわけです。勤務医本人にとっても、進んだ分がはっきり見えます。
判定はAIの推測ではなく、実績に基づくルールで出しています。ここは意図的です。人の評価に関わる部分をAIの気分で決めさせるわけにはいきません。AIがやるのは集計と表示、決めるのは人間、という線引きです。
紙のサブカルテ(診療メモ)を、iPadで開ける「患者さんごとのページ」にしたもの——中身の想像は、たぶん皆さんつくと思います。大事なのは、これが「置き場所」になっていることです。お薬手帳の読み取り結果も、口腔内写真も、録音から起こした下書きも、歯周検査の結果も、行き先はここ1か所。診療中に開くのは1画面だけです。
抗血栓薬・アレルギー・注意事項は、患者ページの一番上に常時表示。誰が開いても、見落とせない場所に置く。
表示は0.026秒。診療の合間に開くものなので、速さは機能のひとつだと考えています。
特殊なデータベースではなく、パソコンで普通に開けるテキストファイル。アプリが全部壊れても、診療記録は読めます。
受付がお薬手帳を撮ると、院内のAIが薬を読み取り、歯科治療で注意すべき薬(血が止まりにくくなる薬・骨に作用する薬など)を緊急度つきで指摘します。ここで大切にしたのは役割分担です。受付がやるのは「読み込んで下書き保存する」まで。医学的な確定は歯科医師が患者ページで行い、そこで初めて診療記録の本文になります。受付が忙しければ「読み込みだけ」で止めてよい設計です。判断をスタッフに背負わせず、情報だけ先に渡す。判定の土台は13分類197剤の知識ベースで、医学的な誤りがないことを確認済みです。
買ったシステムは、医院に合わせてくれません。
作ったシステムは、合わせるしかありません。
いいことばかり書くと嘘になるので、実際のところも書いておきます。
それでも、この順番で作れば近道はあると思っています。まず「今すでにある記録」を探すことです。教育→予約の連携も、新しく何かを記録し始めたのではなく、もう持っていたものを別の場所で使っただけでした。医院の中には、たいてい使われていない記録が眠っています。
AIで自分の仕事の道具を作っている方、いま何かを試している方。業種は問いません。使っている機材のこと、選んでいるAIのこと、うまくいかなかったこと——何を作っているか、ひとことでも添えてもらえるとうれしいです。