Deep dive 10
司令塔とAI同士の申し送り

AIたちの
伝言係を、
やめました。

院内のシステムを、何人ものAI(Claude Code)に同時に直してもらっています。つい最近まで、AとBのあいだで「向こうはいまこれをやっているよ」とコピーして貼る伝言係は、院長の仕事でした。ある事故をきっかけに「司令塔」を置いたら、しばらくして気づきました。伝言を、していない。

3つのAIが同じプログラムを同時に直す きっかけは同じ75行の二重挿入 院長が押すのは「承認」だけ 司令塔そのものもAIが作った
Before

AIは優秀なのに、
隣のAIが何をしているかは知らない。

AIを1つずつ使っているうちは、困りませんでした。

困り始めたのは、同時に何本も走らせるようになってからです。電子サブカルテの「新患の自動登録」を直すAIと、「仮の患者」を作るAIと、「治療計画の欄」を足すAIが、同じ時間に同じプログラムを触っている。どのAIも自分の担当には詳しいのに、隣のAIがいま何をしているかは知りません。

だから院長が、片方の画面で「こう決めたよ」と話したことをコピーして、もう片方の画面に貼っていました。「向こうが先にそこを直しているから、待って」も院長が伝える。1日に何度も。AIに仕事を任せているはずが、院長がAIたちの連絡係になっていました。

AIに仕事を任せたら、
院長が伝言係になっていた。
The accident

同じ75行が、二重に入ったまま
本番で動いてしまった。

2026年9月6日。3つのAIが、電子サブカルテの同じファイルを同時に直していました。お互いを知らないまま書き込んだ結果、同じ75行が二重に入ったまま、診療で使っているシステムが動いてしまいました。

最初に出た対策案は、「1人が触っている間は、ほかのAIは入れない鍵をかける」でした。院長はこれを却下しました。理由は「止めるだけで、指揮をしないから」。鍵をかければ事故は防げます。でも、待たされたAIは何もせずに止まるだけで、仕事は前に進みません。欲しかったのは門番ではなく、交通整理をする人でした。

1
直す前に、申告する。AIはプログラムを直す前に、司令塔へ「何のために直すか」を届け出ます。届けないで書こうとすると、仕組みの側で止められます。
2
どこを触るかを、先に言う。触るファイルと場所を申告します。ほかのAIと重ならなければ、そのまま並んで作業してよし。
3
重なったら、まず機械、次にAIが判定する。同じファイルでも場所が違えば「並走してよい。ただし相手の直している関数には触らない」。本当に同じ場所なら、後から来たほうが順番待ち。AIでも決められないときだけ、院長に聞きます。
4
終わったら、待っている人に知らせる。完了すると、待っていたAIに「○○が終わりました。続けてよい。計画を出し直すこと」と届きます。
院長が押すボタンは、3つだけ。

本番の再起動、削除、そして同じ場所の取り合いの裁定。それ以外の「誰がどこを触るか」は司令塔が決めます。ちなみにこの司令塔のプログラムも、事故のあったその日のうちにAIが設計して作りました。

The side effect

事故を防ぐために置いたら、
伝言がいらなくなっていた。

司令塔は、衝突を防ぐために作ったものです。ところが1週間ほどたって、院長が気づきました。最近、AIとAIのあいだでコピペをしていない。なぜそうなったのかをAIに調べさせたら、2つのものが噛み合っていました。

これまで AI・A AI・B AI・C 院長 コピーして、貼る 全部の連絡が、院長を通る いま AI・A AI・B AI・C 掲示板 誰が・どこを・どこまで 直接 院長:承認だけ
伝言の通り道が、院長から掲示板へ — diagram: AI (Claude)
①
掲示板が、毎回ひとりでに目に入る。院長が何かを打ち込むたびに、司令塔が「いまほかに誰が、何のために、どのファイルを触っているか」を、そのAIの頭に自動で差し込みます。AIは頼まれなくても、いつも全員の担当表を見ている状態になりました。
②
AIからAIへ、直接届ける手段ができた。2026年8月、Claude Codeに「別のセッション(別の画面で動いているAI)へメッセージを送る」機能が入りました。ただ、この機能だけでは誰に送ればいいかが分かりません。宛先を教えたのが、①の掲示板でした。

実際にあった流れを、時刻どおりに並べます。院長は、下の途中で一度も手を出していません。

足りなかったのは「話す手段」ではなく「名簿」でした。

AI同士でメッセージを送れる機能は、世の中ではもう話題になっています。でも、別々に動いているAIは、そもそも隣に誰がいて、何を担当しているのかを知りません。事故を防ぐために置いた掲示板が、たまたまその名簿の役目を果たしていました。狙って作ったのではなく、副作用で手に入ったものです。

事故を防ぐために置いた掲示板が、
AIたちの名簿になっていました。

— 司令塔を置いて8日目に、院長が気づいたこと
What still doesn't get through

それでも、
院長にしか運べないものがある。

届くのは、司令塔に申告された作業と、その要旨だけです。院長が口で話した細かいニュアンスや、「なぜそうしたいのか」という背景までは、自動では伝わりません。そこは今も院長の仕事です。

それに、最初にこの記事の元になる調査をしたAIは、一度「AI同士の直接メッセージは使われていない」と台帳に書いてしまいました。送った側の記録を一部の場所でしか探しておらず、受け取った側を見ていなかったからです。受け取った側の記録を見て、すぐに訂正しました。AIの調べものも、どこを見て言っているのかまで確かめる必要があります。

※ 伝言係の仕事がなくなって、少しだけ、さびしいそうです。

What this proves — and what it doesn't

AIを増やすほど要るのは、
賢さより、交通整理でした。

1つのAIを賢くしても、AIが3つになれば、ぶつかります。

必要だったのは、誰がどこを触っているかを全員が見られる場所と、ぶつかりそうなときに順番を決める役でした。人間の職場で言えば、ホワイトボードと、朝の申し送りです。院長の仕事は、AIとAIのあいだを走り回ることから、最後に「それでいい」と承認することに変わりました。

ただし、これは院内のプログラムを直すという限られた場面での話です。診療そのものや、患者さんの情報を扱う判断をAI同士に任せているわけではありません。

「こんなことやってるよ」を、
聞かせてください。

AIで自分の仕事の道具を作っている方、いま何かを試している方。業種は問いません。使っている機材のこと、選んでいるAIのこと、うまくいかなかったこと——何を作っているか、ひとことでも添えてもらえるとうれしいです。

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医療法人 For one tooth
くりえいと歯科おおかわちクリニック 大川内秀幸
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