院内のシステムを、何人ものAI(Claude Code)に同時に直してもらっています。つい最近まで、AとBのあいだで「向こうはいまこれをやっているよ」とコピーして貼る伝言係は、院長の仕事でした。ある事故をきっかけに「司令塔」を置いたら、しばらくして気づきました。伝言を、していない。
AIを1つずつ使っているうちは、困りませんでした。
困り始めたのは、同時に何本も走らせるようになってからです。電子サブカルテの「新患の自動登録」を直すAIと、「仮の患者」を作るAIと、「治療計画の欄」を足すAIが、同じ時間に同じプログラムを触っている。どのAIも自分の担当には詳しいのに、隣のAIがいま何をしているかは知りません。
だから院長が、片方の画面で「こう決めたよ」と話したことをコピーして、もう片方の画面に貼っていました。「向こうが先にそこを直しているから、待って」も院長が伝える。1日に何度も。AIに仕事を任せているはずが、院長がAIたちの連絡係になっていました。
2026年9月6日。3つのAIが、電子サブカルテの同じファイルを同時に直していました。お互いを知らないまま書き込んだ結果、同じ75行が二重に入ったまま、診療で使っているシステムが動いてしまいました。
最初に出た対策案は、「1人が触っている間は、ほかのAIは入れない鍵をかける」でした。院長はこれを却下しました。理由は「止めるだけで、指揮をしないから」。鍵をかければ事故は防げます。でも、待たされたAIは何もせずに止まるだけで、仕事は前に進みません。欲しかったのは門番ではなく、交通整理をする人でした。
本番の再起動、削除、そして同じ場所の取り合いの裁定。それ以外の「誰がどこを触るか」は司令塔が決めます。ちなみにこの司令塔のプログラムも、事故のあったその日のうちにAIが設計して作りました。
司令塔は、衝突を防ぐために作ったものです。ところが1週間ほどたって、院長が気づきました。最近、AIとAIのあいだでコピペをしていない。なぜそうなったのかをAIに調べさせたら、2つのものが噛み合っていました。
実際にあった流れを、時刻どおりに並べます。院長は、下の途中で一度も手を出していません。
AI同士でメッセージを送れる機能は、世の中ではもう話題になっています。でも、別々に動いているAIは、そもそも隣に誰がいて、何を担当しているのかを知りません。事故を防ぐために置いた掲示板が、たまたまその名簿の役目を果たしていました。狙って作ったのではなく、副作用で手に入ったものです。
事故を防ぐために置いた掲示板が、
AIたちの名簿になっていました。
届くのは、司令塔に申告された作業と、その要旨だけです。院長が口で話した細かいニュアンスや、「なぜそうしたいのか」という背景までは、自動では伝わりません。そこは今も院長の仕事です。
それに、最初にこの記事の元になる調査をしたAIは、一度「AI同士の直接メッセージは使われていない」と台帳に書いてしまいました。送った側の記録を一部の場所でしか探しておらず、受け取った側を見ていなかったからです。受け取った側の記録を見て、すぐに訂正しました。AIの調べものも、どこを見て言っているのかまで確かめる必要があります。
※ 伝言係の仕事がなくなって、少しだけ、さびしいそうです。
1つのAIを賢くしても、AIが3つになれば、ぶつかります。
必要だったのは、誰がどこを触っているかを全員が見られる場所と、ぶつかりそうなときに順番を決める役でした。人間の職場で言えば、ホワイトボードと、朝の申し送りです。院長の仕事は、AIとAIのあいだを走り回ることから、最後に「それでいい」と承認することに変わりました。
ただし、これは院内のプログラムを直すという限られた場面での話です。診療そのものや、患者さんの情報を扱う判断をAI同士に任せているわけではありません。
AIで自分の仕事の道具を作っている方、いま何かを試している方。業種は問いません。使っている機材のこと、選んでいるAIのこと、うまくいかなかったこと——何を作っているか、ひとことでも添えてもらえるとうれしいです。