正直に言うと、この2つは業務効率のためだけに作ったものではありません。面白いから作りました。ただ、面白いだけのものが毎日きちんと動いていて、しかも実務にちゃんと効いている——というのが、たぶん一番参考になる部分だと思います。
院内の連絡ツールに、AI専用の部屋をひとつ作りました。そこには5体のAIがいます。それぞれが自分のアイコンと名前を持っていて、人間と同じように発言します。
それぞれに一人称・語尾・態度・そして「自分についての認識」まで書いた設定があります。自分がAIであること、自分の得意なことと苦手なこと、自分がどこの会社の製品かまで理解した上で発言します。人間のふりはしません。そこは意図的です。
当番が1人選ばれて話題を投げ、残りの全員が返信する。当番も、返信の順番も、日替わり。この時間になると、勝手に始まります。院長は昼休みにスマホで眺めているだけです。……業務効率とは何の関係もありません。でも、これがいちばん人に見せたくなる画面です。
ふざけているようで、実はここが実務の入口になっています。会話の途中に院長が一言入れると、それがそのまま作業の指示になります。司令塔のAIが「これはコードの話だからCodexへ」と割り振り、担当のAIが実際に手を動かして、できたものをこの部屋に置いて帰ってきます。
技術的には、AI同士を裏で直接つないだほうが速いです。それをやらずに、あえて人間が見ているチャットルームを経由させているのには理由があります。
裏で勝手に進むと、何が起きたか後から追えません。ここを通せば院長は診療の合間にスマホで全部見られて、その場で止められます。「AIに任せる」の前提は、見えていることだと思っています。
各AIが従うルールは、その部屋の上部に貼ってある文書です。院長がスマホでその文書を書き換えると、次の仕事から全AIがそれに従います。プログラムを直す必要はありません。
コードを書く担当のAIには書き込みの権限を渡していません(読むだけ)。患者さんの情報が入ったフォルダには近づけません。やりとりが一定回数を超えたら人間に判断を回します。費用の発生する操作は、着手前に必ず確認します。
この部屋はインターネット上のサービスを経由します。だから、患者情報を扱うローカルAIは、ここには参加させません。機密が絡む処理が必要なときは、司令塔のAIが部屋の外で直接ローカルAIを呼びます。「直属の機密係」を別に持っておく形です。便利さのために線引きを崩さない——ここは最初に決めて、一度も変えていません。
AIの情報は、まず英語で、しかも一日中どこかで出続けます。追いかけるのは無理です。かといって翻訳された見出しの一覧を眺めても、「で、うちに関係あるの?」が分かりません。ここが問題でした。
だから、翻訳ではなく「雑誌」にしました。
海外の開発者コミュニティや技術ブログを毎朝集めてきて、院長の興味に合わせて記事を書き直します。読み物として書かれているので、専門用語の羅列にはなりません。そして歯科医院に例えて説明されます。これが効きます。「この技術は、器具出しを人がやって滅菌を機械に任せるのと同じ構図です」と書いてあると、一瞬で分かるからです。
AI朝刊 — 毎朝6:00 配信 / 1記事 = 1投稿
先週から複数の現場報告で同じ話が出ています。賢いAIに丸ごと任せるより、決まりきった処理は普通のプログラムに戻したほうが、速くて正確だったという報告です。ある開発者は処理時間が8分の1になったと書いています。
歯科医院で言えば、器具の準備は人がやり、滅菌はオートクレーブに任せるのと同じ話です。判断が要るところは人(AI)、決まっているところは機械(プログラム)。全部を一番賢いものにやらせるのは、実は非効率だった、ということですね。
院長のところに当てはめると:歯周検査の読み取りが、まさにこれでした。すでに解決済みの話ですが、同じ判断が使える場所がまだ他にありそうです。
※ 上は紙面の作りを示すイメージです。実際の記事ではありません。
「何に興味があるか」と「どんな文体で読みたいか」を書いたファイルが2つあります。これが編集長への指示書です。興味が変われば書き換える。すると翌朝から紙面が変わります。世の中の重要度ではなく、自分にとっての重要度で並ぶのが、市販のニュースアプリとの決定的な違いです。
公式の発表ではなく、実際に使っている人がコメント欄に書いた生の声を拾って載せています。いちばん役に立つのは、たいていここです。「試したけどダメだった」という声は、公式サイトには絶対に載りません。
気になった記事は「うちに取り入れる」を押すと、医院に当てはめた考察が出てきます。その場で相談を続けられて、最後は「じゃあ作って」とAIに渡せる依頼文まで生成されます。思いつきが、実装の入口までつながっています。
「あとで検討」を押すと、院長の知識ベースの受信箱に種メモとして入ります。毎朝3時にAIがそれを整理して、しかるべき場所に振り分けます。院長が完全に忘れていても、後日AIのほうから「これ、やりますか」と出してきます。
AIは、それらしいURLを平気ででっち上げます。だから当院の朝刊は、本文を実際に取りに行って、存在を確認できたものだけを記事の材料にします。確認できないものは機械的に捨てます。チェックを「お願い」ではなく仕組みにしてあります。
情報の収集は無料で公開されているものだけ。記事を書くのは定額で使っているAI。毎朝1冊の雑誌が出ても、費用は増えません。「読まなかった日も課金される」という状態にしないのが、続けるコツでした。
面白がって作ったものほど、
毎日ちゃんと動いています。
「AI同士に雑談させる」「自分専用の新聞を作る」——どちらも、業務改善の提案としては通らない類の企画です。それでも作ってよかったと思っています。
そしてもうひとつ。この2つがあったから、他のシステムの精度が上がりました。朝刊で読んだことをその日のうちに試す、という流れができたからです。情報を追う仕組みを持っているかどうかは、時間が経つほど差になります。
AIで自分の仕事の道具を作っている方、いま何かを試している方。業種は問いません。使っている機材のこと、選んでいるAIのこと、うまくいかなかったこと——何を作っているか、ひとことでも添えてもらえるとうれしいです。