当院の院内連絡は「Slack」というアプリに集めています。見た目はLINEに似たチャットアプリです。でも決定的に違うのは、その中にAIを「住人」として置いておけること。スタッフの報告に絵文字を1つ付けると、AIが読んで、改善案を出し、院長がボタンを押すと、その夜のうちにプログラムが直っています。
LINEの公式アカウントにも自動応答のbotはあります。よくあるのは「1を押すと予約、2を押すと診療時間」というタイプです。あれは「決められた質問に、決められた答えを返す」仕組みで、それ自体は正しく機能しています。
当院がやっているのは、そことは目的が違います。AIを、業務が流れている場所そのものに住まわせる。スタッフの会話を横で読み、必要なときだけ口を出し、頼まれた仕事を実際にやって帰ってくる——という使い方です。これには、チャットアプリ側にいくつかの機能が要ります。
| 要る機能 | なぜ要るのか | 当院の使い方 |
|---|---|---|
| 話題ごとの部屋 | 連絡・不具合報告・発注・評価を混ぜると、AIも人も読み分けられない | 目的ごとに部屋を分け、部屋ごとに担当AIを決めている |
| 絵文字のリアクション | 「これはAIに見てほしい」を、追加の手順ゼロで伝えられる | :ai: を付けた投稿だけをAIが拾う。誰が付けてもよく、後から付けてもよい |
| ボタン付きメッセージ | 院長の承認を、文章を書かずに済ませたい | 改善案カードの[✅採用する]を押すだけで夜間の作業が確定する |
| スレッド(枝分かれ) | 1件ごとのやりとりが、他の会話に埋もれない | AIが不明点をその投稿の下だけで聞き返す |
| 部屋に貼る文書(キャンバス) | 説明書は「使う場所」に無いと読まれない | 各部屋の上部に使い方を自動で貼り替えている |
| 複数のAIを別人格で置く | 役割が違うAIを、名前と顔で見分けたい | AIごとに専用のアイコンと名前を持たせている |
※ 業務とプライベートのアプリが分かれる、という単純な利点も大きいです。スタッフの個人アカウントを院内連絡に使わずに済みます。
これが、当院でいちばん自慢したい流れです。
普通の医院なら、こうなります。スタッフが不具合に気づく → 院長に言う → 院長が業者に電話する → 順番待ち → 「次のバージョンアップで対応します」。ここまでで、たいてい数ヶ月です。そのあいだにスタッフは諦めて、報告しなくなります。これがいちばんの損失です。
当院の実際の流れを、そのままお見せします。
ポイントは「AIが賢い」ことではありません。スタッフが余計な手順を1つも増やさずに報告できること、そして院長が文章を書かずに承認できることです。ここが重いと、どんなに優秀なAIを置いても仕組みは回りません。実際に当院は、絵文字1個で起動する形にするまでに何度も作り直しました。
自動でプログラムを書き換える、と聞くと不安になると思います。当院は変更前に必ず控えを取る・変更は最小限にする・確認できなければ全部元に戻す・患者さんのデータには触らないという条件を最初に固定しました。さらに、口腔内カメラのような重要なアプリはそもそも自動改修の対象から外してあります。危ないものは「人がやる」に振り分けておく、という線引きです。
スタッフ全員が使うAIは、いつもの連絡画面の中にいます。何かを覚えてもらう必要はありません。話しかければ答えるし、必要なときは向こうから声をかけてきます。
やることが決まると、AIが確認カードを出し、ボタンを押すと担当者本人にDMで届きます。そして毎日決まった時間に、まだ終わっていないものだけを催促します。休診日には送りません(祝日も自動で判定します)。
「この処置のときの器具、何を出すんでしたっけ」——これを人に聞くのは、新人にとってけっこう勇気が要ります。AIなら何度でも聞けます。これが実は一番効いている効果かもしれません。
大事な連絡が全員に届いたかどうかを、AIが把握します。「言いましたよね」「聞いてません」がなくなります。
院内の知識を、AIがDMで5問出題して採点します。特に大事な項目は投稿に絵文字を付けて「必出」に指定できます。作問と採点の手間がゼロになりました。
「これ切れました」と品名かシールの写真を送ると、AIが台帳を照会して発注リストに積みます。初めての品は名前と発注先だけで登録でき、細かい情報はあとから会話の中で溜まっていきます。
写真を1枚貼って「ゆびしゃぶりの資料を作って」と頼むと、AIが構成を相談してきて、確定すると資料ができ、診察台の前のポータルにそのまま並びます。
普通の投稿には一切反応しません。絵文字を付けたときと、名前を呼んだときだけ動きます。ここを間違えると「うるさいbot」になり、1週間でスタッフから嫌われます。当院のAIは全部この方式です。賢さより、黙っていられるかどうかのほうが大事でした。
どんなに良い仕組みでも、使い方が分からなければ使われません。そして「マニュアルはあの共有フォルダにあります」は、読まれないのと同じです。
そこで当院は、それぞれの部屋の上部に使い方を貼っています。発注の部屋を開けば、そこに発注のやり方が書いてある。しかもその内容は、機能を変えたときに自動で貼り替わります(元の文書を1か所直すだけで、掲示先が更新されます)。説明書が古くなって嘘をつき始める、という一番よくある事故を、これで防いでいます。
コードだけ直して終わらせない。これを守らないと、半年後に「説明書に書いてある通りにやったのに動かない」が起きます。そのときスタッフが失う信頼は、機能1つの価値よりはるかに大きい。
AIを導入するのではなく、
AIが住める場所を先に用意する。
順番はこちらでした。
※ 正直なところも書いておくと、Slackは人数に応じた費用がかかりますし、最初の1〜2週間はスタッフが戸惑います。当院も全員が慣れるまで時間がかかりました。ただ、慣れたあとに戻る話は一度も出ていません。
AIで自分の仕事の道具を作っている方、いま何かを試している方。業種は問いません。使っている機材のこと、選んでいるAIのこと、うまくいかなかったこと——何を作っているか、ひとことでも添えてもらえるとうれしいです。