タイムカード機、指紋認証機、受付に立てるiPadの打刻キオスク——勤怠の仕組みには、たいてい専用の機械が要ります。当院はどれも買っていません。市販の小さな見守りカメラを1台置き、あとはスタッフ全員が自分のスマホで打刻します。写真に複数人が写っていれば、その場で全員ぶんまとめて記録。追加の端末は0台です。
勤怠管理の既製品を検討したとき、最初に引っかかったのは機械そのものより「置き場所」でした。
25人のスタッフが毎日出退勤するには、受付か休憩室にキオスク端末が最低1台要ります。iPadで自作するにしても、固定する台、充電、破損・紛失対策が別途必要。そして当院の場合、院内Wi-Fiの接続台数がもう上限に近く、スタッフ全員のスマホを新たに常時つなぐ余地がありませんでした。
そこで発想を変えました。「打刻する場所」を増やすのではなく、「もう全員が持っているもの」——スマホを使う。カメラだけ1台置けば、それ以外は何も増やさなくていい、という結論です。
出勤・退勤のときにやることは1つだけです。自分のスマホで打刻ページを開き、「📷撮影」を押す。すると壁のカメラが今まさに写している映像が表示され、そこに写っている人の名前を選びます。複数人が同時に出勤してくれば、1回の撮影で全員ぶんが記録できます。
出勤・昼の外出・昼の戻り・退勤——当日の打刻の回数からAIが次はどれかを予想して選んでおいてくれるので、選ぶ手間もほぼありません。カメラの前で数秒立ち止まるだけで終わります。カメラの調子が悪い日、電波が弱い日もありますが、そのときは「写真なし打刻」にそのまま切り替わり、記録自体は止まりません。
世の中の勤怠システムを否定しているわけではありません。ただ、25人という規模とうちの建物の事情には、専用端末を増やすより、この形の方が合っていました。
本人以外が誤って打刻してしまう事故を防ぐため、打刻の写真から「顔」を裏側で照合しています。判定を待たせては本末転倒なので、これは打刻そのものをブロックしません。15分ごとにまとめて照合が走り、様子がおかしければ院長にだけアラートが届く仕組みです。
別に観察用のカメラや監視モードを常時回す必要はありません。日々の打刻写真そのものが学習データになる設計で、使うほど精度が上がっていきます。
「着替えは労働時間に入るのか」という、地味だけど毎日ぶつかる疑問に、写真から判定して答えを出しています。出勤・退勤それぞれ2分ずつ、自動で加算されます。
ここが、既製のタイムカードといちばん違うところです。
「何時から何時までが所定労働で、何分過ぎたら遅刻か」「着替え分の2分は残業に乗せるのか」「無許可の早朝残業はどこから承認が要るのか」——こうした細かいルールは医院ごとに事情が違います。当院はそれを院長と何度もすり合わせながら、そのまま計算の中に組み込みました。
グラフや集計だけなら、表計算ソフトでもできます。AIが効いているのは、こうした「うちだけのルール」をそのまま計算式にできること。既製ソフトの設定画面には、たいてい用意されていない項目です。
打刻用に置いたカメラは、24時間の映像を貯め続けているわけではありません。直近の数枚だけを保存し、古い分は自動で上書きする仕組みで、ディスクの使用量が増え続けることはありません。写真そのものも60日で自動的に消えます。
勤務時間の確認・修正をする管理画面は、院内のネットワークからしか開けません。スタッフが出先から打刻できるのは、院内Wi-Fiではなく携帯回線経由。院内共通の合言葉を知っている端末だけが使えます。カメラの映像は、いつでも手元でオフにできるシャッター機能つきで、毎朝は自動でオンに戻ります。
専用の機械を1台買う前に、
もう全員が持っているスマホで
足りないか、を考える。
順番があります。いきなり残業計算まで作ろうとすると、まず挫折します。当院の実際の順番はこうでした。
※ この仕組みは、今もスタッフ全員に実際に使ってもらいながら、遅刻・早退や手当の細かいルールを一つずつ確認して仕上げている最中です。
AIで自分の仕事の道具を作っている方、いま何かを試している方。業種は問いません。使っている機材のこと、選んでいるAIのこと、うまくいかなかったこと——何を作っているか、ひとことでも添えてもらえるとうれしいです。