Deep dive 05
監視カメラのAI解析

誰かを疑うためではなく、
誰も疑わなくていい状態を
つくるために。

医院で物が見当たらなくなったとき、いちばん傷つくのは「無くなったもの」ではありません。誰も何も言わないまま、空気だけが重くなることです。当院は、貴重品棚と院長室のカメラ映像を院内のAIに読ませて、「誰が、いつ、そこを開けたか」を淡々と記録するだけの仕組みを動かしています。

2か所で稼働中 映像は院内で解析・外に出さない 育成中の段階 市販の家庭用カメラを使用
夜の院内。鍵付きのキャビネットと、天井角の小型カメラ。人はいない(イメージ)
何も起きていない夜。記録だけが静かに残っていく——それが、この仕組みのふだんの姿です。image: AI (gpt-image-2)
Why we built it

器具の管理は、
人を信じるかどうかの話ではありません。

歯科医院には、小さくて高価なものがたくさんあります。器具、材料、部品、鍵、現金。そして、それらは日常的に「見当たらない」ことがあります。ほとんどは置き忘れか、誰かが使っていたか、別の場所に戻されただけです。

問題は、そのあとです。記録が無いと、「なぜ無いのか」を誰も説明できません。説明できないと、その場は「まあいいか」で流れます。でも同じことが何度か続くと、口には出さないまま、疑いのようなものが院内に溜まっていきます。これが本当に怖い。実際には誰も何もしていないのに、全員が少しずつ居心地を悪くしていく。

記録があれば、その空気は生まれません。

「あのとき棚を開けたのは自分だ」と、あとから普通に確認できる。疑いを晴らすための材料が、最初から揃っている状態——これが目的です。人を見張るための仕組みではなく、人を疑わずに済ませるための仕組みです。順番が逆だと、まったく別のものになります。

記録は、犯人を探すためではなく、
全員の潔白を、当たり前にしておくためにあります。
The technology

AIは、映像を「見て」
言葉で説明できます。

ここが、まだあまり知られていない部分だと思います。多くの方が想像する監視カメラのAIは「動くものがあったら通知」まででしょう。今のAIは、映像を見て「何が起きていたか」を日本語の文章で説明できます。そして顔を見分けて、登録した人かどうかを判定できます。

しかも当院の場合、その処理を自分のパソコンの中でやっています。クラウドに映像を上げていません。医院の中の映像が外に出ていかない、というのは、この手の仕組みを入れるときの最低条件だと考えました。

院内カメラ 貴重品棚・院長室など 院内PCのローカルAI ・映像を読んで文章で説明 ・登録した人かどうかを判定 映像はこの箱から出ない 毎朝1通の報告 院長のスマホへ・文章だけ 院内 外へ出るのは文章だけ 映像のクラウド送信はしない
映像は院内から出ない。出るのは「ひとこと」だけ — diagram: AI (Claude)
#院内カメラ — 毎朝のまとめ(サンプル)
カメラ担当AIAPP7:05
昨日のまとめ(貴重品棚)
・アクセス 3回。すべて登録済みの人でした。
・09:12 と 13:40 と 18:05。いずれも扉の開閉のみで、普段と違う動きはありません。
・未登録の人の接近:0回
カメラ担当AIAPP7:05
昨日のまとめ(院長室)
・出入り 5回。全員、登録済み。
・21:30以降の動きはありません。
・気になる点:なし
報告は毎朝1回だけ。異常が無ければ「無い」と書く — 表示はサンプルです

毎朝これが1通届くだけです。何も起きていない日は「何も起きていません」と書いてある。それを読んで終わり、が9割以上です。録画を早送りで見る時間は、もう発生しません。そして異常がある日は、その日のうちに分かります。

朝の食卓で、スマホに届いた短い報告を確認する手元(イメージ)
朝の1分。「気になる点:なし」を読んで、コーヒーに戻る。それがこの仕組みの完成形です。image: AI (gpt-image-2)
The clever part

面白いのは、
「AIに全部やらせなかった」ところです。

ここは自慢させてください。技術に興味のある方ほど「へえ」と言ってくださる部分です。

AIに映像を丸投げすると、誤報が増えます。照明が変わっただけ、影が動いただけで「人がいた」と言い出す。そこで当院は、AIに聞く前に、単純な物差しで先に判定するという手を入れました。

棚の側面に貼られた黄色い付箋のクローズアップ。奥にカメラのレンズが小さく光る(イメージ)
誤報をいちばん減らしたのは、賢いAIではなく、この付箋1枚でした。前に人が立つと暗くなる、それだけ。image: AI (gpt-image-2)

黄色い付箋を、1枚貼っただけ

棚の側面に黄色い付箋を貼ってあります。誰かがその前に立つと、付箋が隠れて暗くなる。それだけで「前に人が立った」と分かります。AIを呼ぶ必要すらありません。照明が変わっても誤動作しにくい、というおまけ付きです。

コスト数円

朝のハンガーで、その日の服の色を覚える

朝6時〜9時にハンガーに掛かった服の色を見て、「今日の院長はこの色の服」と先に確定しておきます。そうすると、映った人物が院長かどうかの判定がぐっと安定します。人間が現場でやっている見分け方を、そのままプログラムにした形です。

誤報が減る

調整のときは、AIを呼ばない

カメラの角度や判定の閾値を変えたときは、AIを動かさずに数値だけ測り直せるコマンドを用意しました。調整のたびにAIを回すと、時間も電気代も無駄になります。

調整は秒で終わる
「賢いAI」より「賢い置き方」が効くことがあります。

付箋1枚とハンガーの色。どちらも技術的にはまったく高度ではありません。でも、この2つを入れたことで誤報が減り、AIを呼ぶ回数が減り、仕組み全体が安定しました。当院がAIを触ってきて何度も出くわしたのがこのパターンです。AIをうまく使うコツの半分は、AIを使わない場所を決めることでした。

Our rules

やらないと決めていること。

この手の仕組みは、作り方を間違えると医院を壊します。だから最初にルールを決めました。

隠して置かない

設置している場所と、何のために見ているかを、はっきりさせておく。こっそり置いた時点で、目的が「疑うこと」に変わってしまいます。そうなると、たとえ何も起きなくても信頼が減ります。

働きぶりは見ない

見ているのは貴重品棚と院長室だけです。診療室でスタッフがどう動いているかを見るためのものではありません。評価に使うつもりもありません。目的の外に使い始めた瞬間に、この仕組みは失敗します。

映像を外に出さない

解析は自分たちのパソコンで行い、映像をクラウドの会社に預けていません。患者さんが写り込む可能性がある場所を扱う以上、ここは譲れません。

報告は「異常なし」も書く

何かあったときだけ通知が来る仕組みは、静かに壊れていても気づけません。毎朝「異常なし」と届くことで、動いていること自体が確認できます。

経営する側から見た、正直な話。

院内の物や現金の問題は、起きてから対処すると、たいてい人間関係のほうが先に壊れます。調査すること自体が、全員への不信の表明になってしまうからです。だから「起きてから」ではなく「起きない状態」を先に作っておくほうが、圧倒的に安い。そして実際のところ、記録が普通に存在している職場では、そもそも何も起きません。この仕組みの成果は、毎朝の「異常なし」がずっと続いていること——それ以上でも以下でもありません。

いちばんいい防犯は、
誰も疑われないことだと思います。

— カメラ映像のAI解析
Honest status

今どこまで来ているか。

誇張しないために、現状を正確に書いておきます。当院は動いているものを「完成」と呼ばないルールにしています。

※ カメラの設置や運用にあたっては、目的の明示など、それぞれの職場に応じた配慮が必要です。当院の考え方をそのまま持ち込めるとは限らないので、そこは各医院でご判断ください。

「こんなことやってるよ」を、
聞かせてください。

AIで自分の仕事の道具を作っている方、いま何かを試している方。業種は問いません。使っている機材のこと、選んでいるAIのこと、うまくいかなかったこと——何を作っているか、ひとことでも添えてもらえるとうれしいです。

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医療法人 For one tooth
くりえいと歯科おおかわちクリニック 大川内秀幸
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